納車されたその日から、このバンには特別な “気配” があった。
単なる見た目だけのヤレ感ではない。
この車が、かつてどのように走っていたのか。
その手がかりを静かに匂わせる何かだった。
納車と同時に手渡されたひとつのキーホルダー。

AAバッジが取り付けられた黒のレザーキーホルダー。
AAらしさは感じられるが、どこかありふれたアイテムにも見える。
丁寧に保存されていたのか、車両本体に比べるとかなり状態は良い。
そして、そのバッジの裏面には刻印が入っていた。

“AA Service
Please return intact to any AA office or patrol.”
最初は、ただのノベルティのようにも見えた。
だが、この文言をよく読むと少し違和感がある。
「拾ったら返してください」という軽いお願いではない。
むしろ、「この鍵はAAの資産である」という意思表示に近い。
かつてのThe AAでは、パトロール車両や機材、鍵に至るまで、すべてが回収前提で厳格に管理されていたという。
“return intact”――そのままの状態で返却せよ。
この言葉には、どこか業務的で、わずかな法的ニュアンスすら感じられる。
さらに、“patrol”という単語。
これは一般向けの表現というより、現場要員を指す内部的な呼び方だ。
もしこれがレプリカ用に作られたものなら、もっと「それらしい」装飾的な表現になっていてもおかしくない。
しかし、このキーホルダーは違う。
あまりにも実務的で、飾り気がない。
それは「再現された小道具」ではなく、誰かが実際に日常の中で使っていたもののように感じられた。
もちろん、これだけで断定はできない。
仮にこのキーホルダーが当時の実用品だったとしても、このバン自体がAAの実働車だった証明にはならないからだ。
ただ、それでも――
こうした小さな “現場の痕跡” が、この車の過去に確かな現実味を与えていることは間違いない。

その過去を、歴史を、紐解いてみたい。
そして次に気になったのは、車内に残された “無線機”と ルーフの ”アンテナ” だった。