
雲ひとつない青空。
やわらかな春の光。
世界が緊迫した情勢の最中、
私たちにとっては穏やかな一日となった。
主人と二人、ルンバに乗って
和歌山の「マーズスピードジャパン」へ向かう。
初めて主人がAAバンと出会ったあの日から、
何度も整備の様子を見に訪れた場所。
その見慣れた道のりも、
あと一度、納車日を残すだけとなった。
寂しいような、
ほっとしたような、
どこか落ち着かない、複雑な気持ち。
お店に着くと、
AAバンとオーナーはすでに裏のガレージでスタンバイしていた。
主人はすぐにオーナーとともに車内へ乗り込み、
手ほどきを受ける。
そして——
初めてのドライブが始まった。
エンジンがかかる。
緊張が走る。
ゆっくりと、バンが動き出す。
どこかぎこちないけれど確実に前へ進む。
私はガレージの前で思わず手を振った。
「いってらっしゃーい!」

PATROL SERVICE のロゴ入り看板にパトライト。
まっきっきのパトロールカーが、
和歌山ののどかな道へと走り出していく。
左右のバックドアには、黒のAAロゴ。
その後ろ姿はヨチヨチで笑えた。
「遊園地を走るゴーカートみたい」
そう口にした瞬間、
隣にいた女性スタッフさんが静かに言った。
「もっと走るんですけどね。最初は合わせた方がいいですし。
壊すのは簡単なんでね。」
壊すのは簡単。
その言葉だけが妙に現実的で、ちょっとビビった。
しばらくしてバンが戻ってくる。
楽しそうにパトロールを終えたAAバンが、
ガレージへと帰ってきた。
——そのときだった。
車を停めバックに入れようとした瞬間。
「チョーク引いたらあかん!」
オーナーの声。
空気が一変する。
チョークはエンジン始動時だけ。
そのままアクセルを踏めば燃料が濃くなりすぎる。
いわゆる、“かぶる” 状態。
機械は正直だった。
扱いを間違えれば、すぐに応えなくなる。
しかも50年以上も前につくられた車。
「壊すのは簡単」
先ほど聞いたその言葉の意味を、この瞬間はっきりと理解した。
初めてのダイレクトチェンジシフトに少々戸惑った。
それでも実技指導は無事に終わった。

主人自らの手でAAバンに触れ操作した。
バンとシンクロする日も、そう遠くはないはず。
そして、この二日後。
私たちは、この一台を迎えに行くことになる。